【#9】BISHU WOOL FACTORY 時を織り、風を閉じ込める。
「織物の美しさに真心こめて」

尾州の工場入口に掲げられた言葉。技術ではなく“心”で織るという誇り。
つい先日、尾州を訪れた。
空気に少しだけ秋の湿気が混じり、
工場の中には、金属と蒸気のにおいが静かに漂っていた。
SUBCULTUREの新しいオリジナル・バッファローチェックは、
その空気の中で動き始めた。
来年に向けたサンプル。
まだ世に出ていないその生地を確かめに、瀬尾は尾州へ向かった。
縮絨 ― 生地に命を吹き込む

熱と蒸気の中、ウールの目が詰まっていく。ここで生地の骨格が決まる。
織り上がった生地は、そのままでは終わらない。
尾州では伝統的に、ウールを仕上げる前に**縮絨加工(しゅくじゅうかこう)**を行う。
目的は、保温性と耐久性の向上。
繊維の目を詰めることで空気を閉じ込め、
体温を逃がさない構造を生み出す。
同時に、摩擦や引っ張りにも強くなり、
長く着ることができる“本物の布”になる。
特別なWOOL100%の糸でしか出せない縮絨を求めて。

圧力と温度。わずかな差が風合いを左右する。数値より職人の勘が頼り。

蒸気に包まれながら、布がゆっくりと動く。その瞬間に命が宿る。

生地が呼吸する。瀬尾が現場で見つめたのは、素材の生きる瞬間。
起毛 ― 温もりと表情をつくる

繰り返しブラシをかけ、生地表面の毛羽を立たせる。温かさと柔らかさが同時に生まれる。
縮絨を終えた布に、最後の工程が待っている。
それが起毛加工だ。
ブラシを何度も往復させ、
ウールの表面を繊細に毛羽立たせていく。

起毛によって繊維の間に空気の層ができ、自然な断熱材となる。
目的は、保温性と外観の深み
毛羽の間に空気の層ができ、体温を包み込む。
そして表面の光がやわらかく反射し、
まるで長年着込んだようなヴィンテージの奥行きを帯びる。

繊維の光沢と奥行きを最終確認する瀬尾。生地に“表情”が宿る瞬間。

何層にも重なったウール。柔らかく、空気を含んだような軽さ。

ふっくらとした表情。光が優しく沈み込むような質感。
尾州の風をまとって
起毛を終えた布を手に取ると、
指先がわずかに沈み、空気がふっと抜ける。
軽いのに温かい。
まるで風を閉じ込めたような柔らかさだ。
このチェックは、来年のためのサンプル。
だが、そこにはすでにSUBCULTUREの“未来の定番”の気配がある。
尾州でしか生まれない温度と職人の勘が、
確かにその中に息づいている。
